小説家、辻村深月さんの作品『傲慢と善良』。
テレビ番組でKis-My-Ft2の藤ヶ谷太輔さんがおすすめ本として紹介したり、Instagramで元NMB48でタレントの渡辺美優紀(通称みるきー)さんが面白かったと紹介しており、今話題の1冊です。
辻村深月さんといえば、松坂桃李さん主演で映画化された『ツナグ』で一躍名を挙げた小説家さんですが、根強いファンがいる『スロウハイツの神様』の舞台化をはじめ、近年はドラえもんの映画の脚本を務められたり(ご本人が相当ドラえもん好きだそうです)、中村倫也さんと吉岡里帆さんが主演で『ハケンアニメ』が映画化されたのに加え、2022年12月から全国の劇場でアニメ映画『かがみの孤城』が公開されるなど、マルチな方面で活躍する売れっ子小説家さんです。
特に、『かがみの孤城』は2018年に本屋大賞を受賞したということもあり、注目を浴びながらの劇場公開でしたが、高いハードルを難なく乗り越える作品で日本中に感動の嵐を巻き起こしています。
そんな彼女が今作で描くのは人間の持つ傲慢さと善良さ。
婚活を舞台に様々な登場人物の持つ傲慢さや善良さに圧倒される部分もありつつも、自分の中にある傲慢さをズバズバ指摘されているようで心臓がキュッとする作品となっています。
今回はネタバレも込みの感想となりますので、未読且つネタバレを目にしたくない方はあらすじの項目まで読んでから一度Uターンして本作品を読了のうえ、再訪してください。既読の方はぜひご自身の感想と照らし合わせながら読んでみてください。
『傲慢と善良』概要
出典:楽天公式サイト
- 発売日: 2022年09月07日頃
- 著者/編集: 辻村深月
- シリーズ: 傲慢と善良
- レーベル: 朝日文庫
- 出版社: 朝日新聞出版
- 発行形態: 文庫
- ページ数: 504p
『傲慢と善良』あらすじ
あらすじは文庫本の裏表紙より引用します。
婚約者・坂庭真実が忽然と姿を消した。その居場所を探すため、西澤架は、彼女の「過去」と向き合うことになるー。彼女は、なぜ姿を消したのか。浮かび上がる現代社会の生きづらさの根源。圧倒的な支持を集めた恋愛ミステリの傑作が、遂に文庫化。
主人公の西澤架は学生時代から恋人を欠かしたことこそないものの、いざ結婚となると一歩を踏み出すことができずに現在は39歳。以前付き合っていた女性は好きだったものの結婚の一歩を踏み出せないことが原因でお別れしてしまったため吹っ切れているわけではなく、今の恋人である真実との結婚へも踏ん切りがつきません。
そんなある日に起きた真実のストーカー被害がきっかけで結婚を決意したのも束の間、今度は真実が姿を消してしまいます。真実を見つけ出すために架は真実の実家や関係者の元を訪ねますが、そこで架が目にし、耳にしたものにあなたはきっと胸を締め付けられます。
『傲慢と善良』感想
※ここからはネタバレも含まれてくるので、未読の方はご注意ください。
全編を通して、多少なりともほぼ全ての人が持つ傲慢さを刺し通していく作品だったなと感じました。
最初は真実のストーカー被害が実在しているような描写なので、本格ミステリ的な作品なのかなと思って読み進めていました。(新キャラが出る度に「こいつが犯人か?」と思いながら読んでいました笑)
ただし、話が進む過程で気づく、そうじゃない作品の側面。
恋愛とは?生き方とは?そう問われているような、自分を見直す教科書のような1冊でした。
辻村さんはこの辺の綺麗なだけじゃない人間らしさを描くのが本当に上手ですね。
「ピンとくる」という傲慢さ
個人的に作中で最も刺さったのが“ピンとくる”という表現から言い当てられる人間の傲慢さでした。
私自身、過去にマッチングアプリで婚活(20代中頃なので、正確には婚活というよりも恋活という表現が適切かとは思いますが)をしていたことがあるからです。
今の時代、マッチングアプリでの出会いはごく一般的ではあるものの、やはり自然恋愛に比べるとどうしても入りの段階で「交際相手としてアリかナシか」の観点が絡んできます。だからこそ、「写真を見て“ピンとこない”」「会ってみたけど“ピンとこない”」。そんな感覚で異性を判断し、傲慢な自己評価していた自分に気付かされました。
「この人が自分にふさわしいのか」
この言葉のままにあの時に会った方々のことを判断していたわけではないですが、意識の底ではこの言葉が自分の判断軸の中にあったことを自覚させられました。
親子の依存と自立
真実と両親の関係もどこかフィクションの世界ではないと感じました。
私の家庭環境が同様だったわけではないんですが、世の中の親は子どもにはずっと子供であってほしいという感情が少なからずあるのではないかと思っています。
私もとある田舎出身なので、おそらく地域としての価値観の根底は真実の両親とそう変わらないと思います。
就職のタイミングで地方を出るまでは、その中で完結する価値観が全てだと思っていたし、正直私の両親が価値観をアップデートできているかと言われるとそうではない気がしています。
ただ、自分の外にある価値観を認められないのは問題だとは思うけど、真実の両親の全てが悪いとまでは思えませんでした。それよりも作品を通して感じたのは真実の両親に対する傲慢さでした。
依存されていることに気付きながらも自分から親への依存をやめる勇気がない。それなのに無意識下では見下しながら共依存をしている状況。カオスですよね。
だからこそ、他者との比較からくる傲慢さも、他人に固執することからくる善良さも捨て、自分自身を受け入れることで前を向いた真実はここで自立できて良かったと感じました。
もし自分が架だったら…
読み終えた時からずっとこれを考えています。
もし自分が架だったら、真実を見つけ出した後に結婚出来ただろうか、と。
ここって個人的にはこの小説を通してあまり納得度の高くない箇所なんですよね。どうして最終的に架は真実と結婚する道を選んだのか。
自分のつけてしまった70点という評価に尾ひれがついて伝わったことがきっかけで失踪したわけで傷つけてしまったことを反省したり、自分の傲慢な思考や行動を省みるきっかけになったとかはまだ分かります。
ただ、自分の思い通りに他人を動かしたいからストーカー被害をでっち上げたり、いきなり音信不通になったりするような人と結婚することが出来るでしょうか。
あんまり好きじゃないんですよね、真実のような動き方をする人。
ただそれも、“比較的真っ当だという自己評価をしている自分自身”と“常識から逸脱した行動をとる異性”が釣り合わないと傲慢にも思っているのでしょうか。
これをずっと考えてしまうあたり、まんまと辻村さんの罠にハマっている気がしますね…笑
思い出すのは『盲目的な恋と友情』
この作品の構成が辻村さんの過去作品『盲目的な恋と友情』に似ているなと思いながら読み進めていました。
前半と後半で語り手が変わることで同じ景色が違う景色として目の前に現れる感じ。
大きな違いとして、今作では前半が傲慢、後半が善良という構成にはなっていないというところですかね。
この作品はただ刺す作品ではなく、善良さの中に垣間見える傲慢さを明らかにし、自立して前進する過程を描くことで我々読者に恐れずに自立する背中を押してくれるような、そんな作品な気がします。
『傲慢と善良』をもっと楽しむために
『傲慢と善良』は単体で十分に楽しめる作品ですが、作品内にはミステリー作家ならではの遊び心で些細な仕掛けが隠されています。
その仕掛けを読み解くために必読なのが同じく辻村深月さんの作品で『島はぼくらと』と『青空と逃げる』の2作品です。
ヨシノや正太郎、耕太郎、早苗と力。彼らは上記の作品で登場したキャラクターであり、それぞれの支え合う姿に懐かしい気持ちになりました。(それぞれ読んだのが結構前だったので笑)
読んでいなくても十分に作品として完成していますが、登場人物のバックグラウンドを知っていれば更に面白くなるという仕掛けです。
辻村さんはこれまでも作品間での登場人物の相互乗り入れによって読者を楽しませてくれていました。
次の作品では、この作中の誰が出てくるのか今から楽しみですね〜。
辻村深月さん原作の映像作品をぜひご覧ください!
辻村ワールドにすっかりハマった読了後のあなたはぜひ前述の『ツナグ』や『ハケンアニメ』も見てみてください。
俳優さん/女優さんによって、辻村さんの描く登場人物が実在する人物として動いています。自身の解釈と演じる方の解釈の違いも楽しみながらぜひご覧ください。
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【結論】辻村作品が好き
私は辻村先生の作品が好きです。
ダークな感情を認めさせてくれて、最後には光もくれる作品が多いからです。
『かがみの孤城』も感動するし、綺麗な作品なんですけど、登場人物たちがめっちゃクリーンかと言われるとそうじゃないんですよね。
きっと全てがクリーンな人間なんてこの世にはいなくて、だからこそこの方の作品は共感を持って読み進めることができるんだと思います。
次もまた、辻村先生の作品が読めるのを楽しみにしています。
※ハードカバーは買わない主義なので文庫化を楽しみにしています!笑